以下要旨です。福島第一原発事故の教訓を蔑ろに
第7次エネルギー基本計画(以下エネ基)の大きな特徴が原発回帰である。福島第一原発事故以降盛り込まれていた「原子力依存度の可能な限りの低減」という言葉は削除され、「最大限の活用」とされた。
政府のコスト試算では、原発の建設費、安全対策費、廃炉費用、事故発生頻度など多くの箇所にコストの過小評価がみられ、科学的ではない。例えば、原発の新規建設費を7,203億円と見積もるが、海外の実例では数兆円規模となっている。
原発回帰は、福島第一原発事故の教訓を蔑ろにするものである。また、原発の抱えるコストとリスク、解決不可能な核のごみ問題から目を背けるものである。
原発建設への公的債務保証は許されない
エネ基は、原発など大型電源について「投資額が巨額になることなどから事業者が新たな投資を躊躇する恐れがある」としており、公的な枠組みでのファイナンス支援を検討するとしている。
原子力建設に際して事業者が銀行から融資を受けられるよう、GX推進機構など政府機関が債務保証を行うことを指していると思われる。本来原子力事業者や投資家が負うべきリスクとコストを、将来世代も含めた国民に転嫁することを意味している。到底受け入れられない。
過剰な電力需要予測とやる気のない省エネ
エネ基のもう一つの特徴が、過剰な電力需要予測である。データセンター建設などデジタル化による電力需要増加が、繰り返し強調されているがその根拠は不明である。 一方で、第6次エネ基では記述されていたデジタル化によるエネルギー効率改善については削除されている。
また、省エネルギーにより、エネルギー需要をどこまで削減しようとしているのか書かれておらず、省エネの個別施策についても抽象的な書き方にとどまっており、第6次エネ基から後退している。省エネの本気度がみられない。
1.5℃目標に整合せず先進国としての責任を果たさない温室効果ガス削減目標
エネ基と並行して議論された地球温暖化対策計画で示された2035年度の温室効果ガス削減目標は、2013年度比で60%にとどまっている。審議会の議論のなかでも、より高い目標を支持する意見が複数出されていたが、それらは反映されてなかった。気候危機の現実に向き合うエネルギー政策、気候変動政策とはほど遠い。
まやかしの「脱炭素」
日本政府は、脱化石燃料の方針は示さず水素・アンモニア・CCSといった、まやかしの「脱炭素」政策を推進している。これは実際には「脱炭素」にはつながらず、火力を延命させ、気候変動対策を遅らせる。
鉱物資源の際限ない採掘からの脱却を
鉱物資源開発の現場で従来起きてきた自然・生態系の破壊、貴重な生物多様性の喪失、土地の収奪、人々の暮らしの破壊、超法規的殺害を含む深刻な人権侵害などが、気候変動対策の名の下に繰り返されることがあってはならず、鉱物資源の可能な限りの需要削減が大前提である。
非民主的な策定プロセス
エネ基について議論された審議会の構成は、化石燃料や原子力、産業界につながりのある委員が多数を占めており、気候変動、再エネ、自治体や地域、SDGs、原発事故などに関わる専門家や当事者、環境NGO、そして若い世代も含めた議論が行われることはなかった。
一部の産業界の既得権益を守ろうとする人たちによる閉ざされた議論のみで、市民参加も国民的議論もないまま、原子力や化石燃料技術の維持・推進が決まったことに強く抗議する。